わが国の近代工芸の先駆者である藤井達吉は、1881(明治14)年愛知県碧海郡棚尾村(現在の碧南市)に生まれました。名古屋の服部七宝店での勤務を経て、1905(明治37)年に上京し本格的に工芸作家として歩みはじめます。
旧来の職人主義的な技術偏重の工芸観を脱するべく藤井は、作家個人の自由な発想に基づいた制作を実践しました。例えば、木彫彩色の屏風に七宝・螺鈿・鉛象嵌を施し、また壁掛けのアップリケには竹皮を用いるなど、あらゆる技術と材料を猟蒐・混交した型破りな作品制作によって当時の工芸界に新風を吹き込みました。
藤井芸術の〈新しさ〉はそのモチーフにもみてとれます。従来あまり取り上げられなかった身近な草花などが積極的に採用されました。自然の形態を根幹に取り入れたデザインは、斬新でありながらもどこか素朴で温かみを感じさせてくれます。
また藤井の創作領域は驚くほど広範囲です。七宝、刺繍、染色、金工、木工、陶芸、手漉き和紙など工芸全般にわたり、さらには日本画、油彩画、図案、装丁にも及びます。その背景の一つに「作品制作と発想は一人の工芸家の手によって統合されるべきである」というこの作家の強い信念がありましたが、彼の目指していたものはまさしく〈統合芸術としての工芸〉であり〈生活としての工芸〉でした。
本展は藤井芸術の全貌を展観する規模で構成し、その芸術の魅力と革新性を紹介しようとするものです。

巡回情報

宇都宮美術館
2013年11月17日(日)~2014年1月19日(日)
岡崎市美術博物館
2014年4月5日(土)~6月1日(日)
渋谷区立松濤美術館
2014年6月10日(火)~7月27日(日)

業務内容

展覧会企画協力、展覧会図録企画・デザイン・編集・制作、広報物企画・デザイン・制作、オリジナルグッズ企画・デザイン・制作

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