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1900年に生まれ、激動の20世紀とともに歩み続けた彫刻家―高田博厚は、戦中戦後の最も働き盛りの30年間をフランスで過ごしました。孤独と極貧の中、あくまで日本人として、ひたすら粘土と格闘しながら、いかにして本質と普遍性を実現できるかを模索してきました。
フランスの美の伝統― サント・シャペルのステンドグラス、クリュニーのラオコーン、シャルトルのカテラドル、そしてオランジュリーのモネとの感動的な出会いは、やがてアラン、マルチネ、ロラン、ヴィルドラックといったフランスの知性との交友へと発展し、彼の強い心の支えとなり、また創造と思索の原点となりました。
師友の肖像を彫刻するとき、彼は表面的な類似に捕われず、相手の人格の本質に迫り、それを抉りだすことに務めました。ロマン・ロランは、「高田は精神を形作る本当の芸術家です。彼は指で思索する」と言い、初めて自分の肖像を彼に依頼しました。彼の作品からは、粘土を媒体とした彼自身と相手、あるいは神との魂の対話を感じとることができます。
本展は、肖像を中心に彫刻約100点、スケッチ約30点を一堂に展示し、彼の交友を通して、20世紀における日本とヨーロッパの思想と芸術の交わりを探ろうとするものです。彫刻家としてだけでなく、あらゆる分野で高い評価を受けながら、社会的名誉を一切求めず、常に自分の人生について真摯に向き合い、本質を追求し続けた高田博厚を今一度、見直す展覧会です。

巡回情報

1992年1月11日(土)~2月23日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
主催:東日本旅客鉄道株式会社
協力:福井市 鎌倉市 豊科町

業務内容

展覧会企画、図録企画・編集・制作、展示什器デザイン

会場写真