本展は、大正から昭和初期にかけて活躍した彫刻家陽咸二(1898-1935)の全貌を明らかにするはじめての大回顧展になります。

陽は小学校卒業後、牙彫や篆刻の職人として修業したのち、島田墨仙に日本画を学び、ほどなく彫刻家小倉右一郎の門下生になったのを機に、本格的に彫刻の道に進みました。帝展や東台彫塑会への出品を重ねながら、徐々に頭角をあらわしていきましたが、とくに、1927(昭和2)年から参加した彫刻団体「構造社」では主要メンバーとして活動し、「 彫刻の社会化」を目指した同社の理念を象徴するような作品を精力的に発表しました。

かれの芸術の特徴の一つは、ひとりの作家の手によるものとは思えないほどの多様な作風です。絵画、版画、工芸、表紙絵など手がけた分野も幅広く、様式も具象や抽象、簡素なタッチから細密描写にいたるまで多様で、モチーフやテーマも和洋を問わず人物、風景、説話などさまざまです。

いまひとつの特徴としては、一つの作品のなかで異なる要素を並べたり、重ねたりしながら、これまでにない新たなイメージを生み出した点です。たとえば、代表作の《降誕の釈迦》では、釈迦と摩耶夫人を西洋の<聖母子像>のフォーマットを借りて表現し、話題を集めました。

陽は生花、釣魚、麻雀など数多くの趣味に興じましたが、とくに菟集趣味においては、希代の趣味人三田平凡寺が立ちあげた「我楽他宗」に参加しています。同宗では「横臥山夜歓寺(おうがさんやかんじ)」と名乗り、菟集対象を「支那趣味一切」とさだめ、社会的地位、性別、国籍など関係なく、さまざまな人々と交歓しました。作品制作あるいは交友関係において陽は、まさに異(他)が入り混じる状況を積極的に生み出し、楽しんでいるかのようです。

本展は5つのキーワードを手がかりに、陽咸二の独特な芸術世界を逍遥していきます。

巡回情報

宇都宮美術館 2023年2月19日〜4月16日